実物経済からマネー経済へ
私たちの日常生活においては、さまざまな場所でお金のやりとりが行われています。実物経済とは、私たちが普段の日常生活で、「物を買ったり、サービスを受けたりするときに行うお金のやりとり」のことを言います。目に見える形で物やサービスとお金の交換が行われているのが実物経済の特徴です。経済状態を判断する上で重要視される各種統計は、大部分が実物経済の姿を表すものになっています。例えばGDP(国内総生産)、貿易収支、消費者物価指数(CPI)などは、実物の経済活動の結果を反映したものです。
マネー経済とは、生活のためにお金を使うのではなく、「お金をふやすことを目的に、お金を商品とみなして売り買いするときのお金のやりとり」のことを言います。例えば、株式などの金融商品や不動産などに投資する行為は、マネー経済に属します。1980年代まではお金のやりとりの大部分が実物経済のものでしたが(実物経済:マネー経済=9:1)、現在ではこれらの関係は逆転し、マネー経済が世界のお金の流れの9割以上を占めてると言われています。
経済の歴史を見てみると。まず実物経済が発展し、そこで生じた余剰分により少しずつマネー経済が形成され、経済がある程度以上発達すると、実物経済とマネー経済は互いに深く依存するようになり、切っても切れない関係になっているのが分かります。デリバティブ市場の発達を背景に、今や先進国においてはマネー経済の規模が実物経済の規模をはるかに上回っており、マネーの力で経済の実態(=実物経済の姿)が歪められることも見受けられるようになっています。
マネー経済とヘッジ・ファンド
マネー経済を代表するものに「ヘッジ・ファンド」の存在が挙げられます。ヘッジ・ファンドとは1940年代に米国で生まれた「投資信託」の一種ですが、1990年代に入って開発途上国などの新興市場が開放されたことを背景に、巨額の資金を集めて高い運用率成績を上げたことから注目を集めるようになり、現在では巨額の資金を運用するファンドの総称としても使われています。ヘッジ・ファンドの規模が急速に拡大したのは、米国内で規制が緩和され、年金資金が流入したためとの解説もなされています。
国際通貨基金【IMF】の報告によれば、世界中のヘッジ・ファンドを集めるとその運用資産は約1,000億ドルにも上るとのことです。1,000億ドルを日本円に換算すると11兆円(1ドル=110円の場合)になりますが、ヘッジ・ファンドの場合は、デリバティブ商品に対する投資でてこの原理(レバレッジ効果)を使っているので、一説では実際の運用額はこの50倍とも、100倍とも言われています。世界第二位の日本のGDPが約500兆円ですから、ヘッジ・ファンドの影響力がいかに大きいかがわかります。実際のところヘッジ・ファンドの実体は明らかにされていないのですが、マネー経済の膨張にヘッジ・ファンドが大きく関わっていることは間違いありません。
ヘッジファンドの運用方法
ヘッジ・ファンドとは本来、相場の下落リスクを空売りなどの手法でヘッジ(危険回避)することを狙いとするファンド(投資信託)のことを指すのですが、現在では巨額の資金を運用するファンドの総称としても使われています。ヘッジ・ファンドの運用手法は様々なタイプが開発されています。主なものは以下の3点です。
- 「ロング・ショート型」
買い持ちと空売りを組み合わせてリスクを抑える - 「マーケット・ニュートラル型」
市場全体の方向性に左右されずに収益を狙う - 「イベント・ドリブン型」
特定の事象の発生または発生予測に基づきタイミングを合わせて売買する