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貿易収支と為替相場

貿易・サービス収支と為替

世界の国々では、さまざまな物やサービスのやりとりが行われており、こうした経済活動の結果を、貿易・サービス収支として各国の政府機関が発表しています。収支とは輸出と輸入のバランスを表すもので、以下のように計上されます。



日本は輸出額が輸入額を上回る貿易黒字の状態にありますが、対照的に米国は貿易赤字の状態が恒常化しています。国境を越えた経済活動には、為替の変動が伴います。貿易の決済は大部分がドル建てでなされていますが、これは米ドルが世界の基軸通貨になっているためでもあります。欧州統一通貨ツーロが誕生し、実際にユーロ通貨の流通が始まってからは、欧州各国との間ではユーロ建てで取引する事例も増加しているようです。また、アジアでは円建ての取引も存在していますが、円の国際的な位置付けは米ドル、ユーロに比べると相対的に低く、貿易の決済通貨としての役割はまだ大きくはありません。


日々の経済活動の成果としてまとめられる貿易・サービス収支の増減は、為替市場への影響を与えることになります。貿易黒字国の通貨が買われ、貿易赤字国の通貨が売られるのはなぜでしょうか?日本の輸出企業の場合、商品の代価として受け取った外貨(米ドル・ユーロ)を、国内で部品調達や従業員の給与の支払い、法人税の支払いなどに充てるため、為替市場を通して日本円に両替する必要が生じます。このように獲得した外貨を円資金に替える行為を「円転(えんてん)」と呼んでいます。一般的には、日本の貿易黒字の拡大はドル売り(=ドル安・円高)要因とみなされます。なお、円転とは、円資産に転化するという意味です。


逆に、貿易赤字となっている米国の場合は、輸出にとり得られる対価(米国の場合は自国通貨である米ドル)よりも、輸入代金として支払う米ドルの金額のほうがおおきくなっている状態にあります。米国の貿易赤字が拡大するということは、他の国は米ドルをより多く所有することを意味し、前日の日本の輸出企業と同様に、ドル売り要因を見なすことが出来ます。



資本収支と為替

貿易を通したお金の流れ、および為替相場へ与える影響については前述の通りですが、実はこれ以外にも外貨のやりとりを伴う取引があります。それは資本取引と呼ばれるもので、有価証券(株・債券など)の売買、資本の貸借、その他の債券責務に関係のある取引がこれに該当します。厳密には、取引を行うものが民間か政府かで民間資本取引を政府資本取引に分かれ、投資の期間が長いか短いかで短期資本取引と長期資本取引とに分かれますが、ここではそこまで細かく考える必要はありません。なお、これらの取引野総決算にあたるのが資本収支と呼ばれるものです。資本収支は、「対外投資額−対内投資額」で求めます。なお、日本の資本収支は赤字(対外投資>対内投資)の状態が続いていますが、これは貿易収支のプラス分が資本取引を通じて他国に還流しているためと言えます。


では、資本収支は為替相場にどのような影響を与えるのでしょうか。例えば、X国からY国へ投資が行われる場合、すなわちX国の投資家がY国の株式市場などに投資する場合には、X国の通貨をY国の通貨に両替する必要が生じます。より、具体的に言うなら、外国人投資家が日本株・日本国債などに対して投資を行う場合には、円買い需要(=円高・ドル安)が発生することになります。逆に、日本の期間投資家が米国株・米国債などに投資する場合には、円資金を外貨に替える必要が生じ、ドル買い需要(=ドル高・円安)が発生することになります。これが「円投(えんとう)」と呼ばれるものです。[円投とは、円資金を投入するという意味です。] 為替市場では、このような特定の国への投資を総称して「○○買い」と表現する場合もあります。上記の例では、それぞれ「日本買い」・「米国買い」となり、基本的には投資資金が集まる国の通貨の価値は高くなります。



資本の本国還流

また、対外投資により得られた収益あるいは元本を自国通貨に換えて引き上げる行為を、レパトリエーション(repatriation)と呼びます。レパトリは、金融機関あるいはヘッジ・ファンドなどの決算期において度々見られる投資行動で、為替相場の変動要因として注目を集めることがあります。日本企業(銀行・証券・その他)の大部分は3月決算(9月中間決算)のため、年度末あるいは中間期末にかけてはレパトリによる円買い要因が発生しやすいという構造があります。ただレパトリが実際に起こるかどうかは、対内および対外資産の運用状況に大きく左右されます。また、大型の国債発行および償還、あるいは民間企業の大型M&Aなどのイベントがある場合には、大口の資本取引を背景に為替相場が動意づく場合もあります。


現在はマネー経済が中心となっており(実物経済とマネー経済参照)、為替に関しても様々なデリバティブ商品が開発されています。為替に関するデリバティブ商品には様々なものがありますが、一般的に利用されているものとしては為替予約が挙げられます。これは顧客と銀行が一定の為替レートをあらかじめ決めたうえで、将来の定められた期日に売買するという仕組みを持っています。決済時の代金を事前に確定することが出来るため、為替差損のヘッジ・ニーズがある輸出入企業が利用しています。また、スワップ取引とは、為替予約の期限を延ばしたり、銀行が自行の持ち高を調整するために行う取引のことを指します。為替予約や為替スワップ取引、外国為替証拠金取引などがこれらに属します。そのため、(実物経済活動に基づく)貿易・サービス収支の結果は、市場参加者に対して一つのメッセージ(判断材料)を発信にしているに過ぎず、それが為替相場へ与える影響は限定的といえるのです。


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