インフレとは
インフレとは、インフレーション(inflation)という英語の略で、モノの値段が上がり続け、お金の価値が下がり続ける状態のことをいいます。インフレが起こる理由はいつも同じわけではなく、経済の状態に応じてさまざまです。例えば、日本がバブル経済に沸いていた頃は、土地を担保にした銀行の貸し出しが急増し、さらなる地価の上昇および株価の高騰を招きました。この時期のインフレの特徴は、資産価格の上昇が鮮明となる一方で、一般物価が比較的落ち着いた動きを見せている点にあります。そのため一般的に言われるインフレとは区別し、銀行の貸し出し(=信用供与)に起因したものであることから、信用インフレまたは資産インフレと呼ばれています。
信用インフレ【credit inflation】とは別に、「一般的な消費財の値上がりが継続する」状態を導く要因には、主に次の3 つがあります。
- 賃金インフレ【wage push inflation】
賃金が上がって消費者の所得が増え、需要が増えて物価が上がり、物価が上がることでまた賃金の引き上げが行われるといったサイクルで起こる物価上昇 - 需要インフレ【demand pull inflation】
景気が良くなって、人々の「モノを買いたい」という意欲が強くなり過ぎた場合に、需要に供給が追いつかずモノが不足気味になることで起こる物価上昇 - コスト・インフレ【cost push inflation】
企業が生産する商品の原材料価格が上昇し、企業が自助努力で生産コストの上昇分を吸収できなくなったときに、製品価格を値上げすることで起こる物価上昇
上記の中でも、警戒感をもって見られるのが 3.コスト・インフレ【cost push inflation】です。最近、原油をはじめ商品価格の上昇が話題になっていますが、原材料および素材関連の中で最も指標性を持っているのは「原油」です。それは、原油が自動車用のガソリンや火力発電所の燃料重油に用いられるだけではなく、ポリエチレンや塩化ビニール、発泡スチロールをはじめ数限りない化学製品の原料になっているためです。それらは住宅建材や工業製品、家電製品、自動車部品に多く用いられており、多くの企業は生産活動に何らかの影響を受けることになるのです。
デフレとは
インフレとは逆に、モノの値段が下がりつづけることでお金の価値が上昇する状態をデフレ(deflation)と呼びます。デフレは景気が悪いために起こる現象ですが、モノを安く買えることから最初のうちは消費者にとっては「良いこと」として受け止められる傾向にあります。例えば、技術が進歩して良い製品が安く作れるようになったため、あるいは輸入が増え外国の安くて良い製品が買えるようになった等の理由で値段が下がるのは、「良い物価下落」とも言えます。しかし、経済全体が活気を失ったことにより、全体的にモノの値段が下がっていく場合には問題です。
デフレの状態が長く続くと、企業は収益悪化を受けて人員を整理したり、賃金の引き下げを行ったり、いわゆるリストラを実施しなければならないようになってしまいます。雇用への影響が出ていない段階では、相対的にお金の価値が上がるわけですから問題にはならないのですが、いざ雇用不安が現実化してくると、消費者は生活防衛へと向かわざるを得なくなります。そして、消費者の買い控えが商品価格の下落を呼び、売上の減少が企業収益を落ち込ませるという具合に、螺旋(らせん)的に悪循環が続くようになります。これがデフレ・スパイラルと呼ばれるものです。
緩やかなインフレは経済発展に必要
そもそも、経済が発展(成長)するということは、その国の経済規模が大きくなることを意味しています。そのためには、企業ベースで考えれば売上高・収益の拡大が必要で、家計ベースで考えれば所得水準が上がり、消費に回せるお金が増えることが大事です。また、国家ベースで考えれば税収が伸びることが必要になってきます。すなわち、前年と比較してプラスの状態、およびその傾向が今後も続くことが望ましいわけです。デフレ経済下ではこれらが縮小均衡へと向かうため、全体のパイは小さくなってしまいます。反面、過度のインフレ状態では経済が麻痺してしまい、その後に大きな調整を強いられることを歴史が証明しています。
「経済成長のためには緩やかなインフレが望ましい」と言われるのはこうした理由からですが、人口増加が続く国であれば、これは経済運営上おそらく難しい問題ではないのでしょう。欧米諸国を見ても、(米国では一時期デフレ警戒を要する状況が続きましたが)デフレが問題になったことはほとんどありません。人口が増える分だけ新たな需要が絶えず発生するためです。日本全体の経済成長を考えた場合には、デフレ経済は放置できるものではありません。そのため、日銀を筆頭にさまざまな対策が打たれています。しかし、これから少子高齢化を迎える日本にとっては、デフレ脱却は難しい問題となっています。国民の金融資産こそ1,400 兆円あると試算されていますが、年金・消費税問題などもあり将来への漠然とした不安が根強いため、消費活動はどうしても鈍りがちです。消費者の心底にある不安が取り除かれない限り、消費が力強い回復を続けることは難しいかもしれません。
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