債券価格の変動要因
個人向け国債の発売開始以降、個人投資家のポートフォリオに占める債券投資の比重が少しずつ高 まっているようです。
「金利が上がるということは、債券の魅力が増すということだから、債券の価格は上がるのでは?」という印象を持つことが、投資の初心者には時々あるようです。債券の仕組みをあまり知らない人にとっては、「金利の上昇=債券価格の下落」という逆相関関係が成り立つことに戸惑いを感じるのでしょう。ただ、こうした誤解は「利回りの計算式」を理解することで避ける事が出来ます。
利回りの計算式
●応募者利回り
(新規で発行された債券を購入して満期まで持ち続けた場合)
●最終利回り
(市場で取引されている債券を購入して満期まで持ち続けた場合)
●所有期間利回り
(市場で取引されている債券を購入して途中で売却した場合)
こうした関係は、利回りは将来の価値と現在の価値の関係を表す事で、一般に利回りが上昇すると、将来価値と同じ価値を持つ現在価値(=現在価格、時価)は小さくなることを意味します。なお、金利にも様々な種類がありますが、債券投資の尺度として使われるのは長期金利です。長期金利とは、期間一年以上の金利のことですが、代表的な指標として10 年物国債の流通利回りが重要視されています。
また、債券市況の解説には、目先の見通しについて「強気」や「弱気」といった言葉が使われます。これは株式等の場合と同じですが、債券においては「強気=債券価格の上昇→金利低下」、「弱気=債券価格の下落→金利上昇」を意味しています。
目安は10年物国債の流通利回り、債券価格は日々変動
債券投資においては、投資タイミングの見極めがその後の収益に大きな影響を及ぼします。と言うのも、債券価格は長期金利の動向に応じて日々変動しているからです。新発債を購入しそのまま満期まで保有し続けるというのであれば話は別ですが、既発債の購入や中途換金を考えるのであれば、金利の動きは無視できない要素となります。金利がこの先、上昇局面を迎えるのか、それとも下降局面を迎えるのかで、対処の仕方を検討することになるのです。
一般的に債券投資のリスクといえば、信用リスク(元本や利息が支払われなくなるリスク、発行体の格付けで判断する)のことを指しますが、これとは別に価格変動リスクがあることを忘れてはいけません。債券投資のパフォーマンスは安定的とのイメージが先行しがちですが、満期までには意外と価格の変動があるものです。満期までに中途換金する必要のない資金であれば、日々の値動きをあまり気にする必要はないのかも知れませんが、金融市場の動きにあまりにも無頓着でいると、思わぬ結果を招きかねないことに注意すべきでしょう。
変動金利と固定金利、インカムゲインとキャピタルゲイン
短期金利や長期金利といった期間に応じた区別とは別に、満期までの間に金利が変動するタイプか、変動しないタイプかで、金利を区別することもあります。前者を変動金利、後者を固定金利と呼びます。一般的な債券〔国債、地方債、社債など〕は固定金利であるため、発行時に定められた利率が満期まで変わることはありません。
そのため、投資パフォーマンスの違いは購入価格そのものに関わってきます。発行時の額面価格よりも購入時点の価格が安ければ、利息収入(インカムゲイン)に加えて、満期時には額面価格との差額(キャピタルゲイン)を得ることができます。逆に、発行時の額面価格よりも購入価格が高ければキャピタルロスを生じることになり、実質的な利回りは低下することになります。なお、中途換金が必要になった場合には、購入時よりも金利が低下していれば、「金利低下=債券価格の上昇」ですのでキャピタルゲインを得られますが、金利が上昇している状況においては、「金利上昇=債券価格の下落」により、額面割れを起こす場合も出てきます。
固定金利タイプの債券投資を行う場合には、発行時の利率が満期まで変わらず、債券購入後に金利が上昇する場合のことを考えて、「高金利時は長期のもの・低金利時には短期のもの」を購入する方法がベターと言えます。なお、平成15 年3 月より発売されている個人向け国債は変動金利の商品になっています。
個人向け国債の概要と購入時の注意事項
個人向け国債とは、半年ごとに実勢金利を反映して適用利率が変わる変動金利制を採用した、1 万円から1 万円単位で購入できる新しいタイプの国債です。個人向け国債は、経済環境等により実勢金利が下がった場合でも、年率0.05%の最低金利保証が設定されています(金利の上限はなし)。適用利率(年率)は、半年ごとに次の計算式で算出されます。「適用利率(年率)=基準金利−0.80%〔算出された値が0.05%未満の場合は、0.05%を適用〕」。
なお、個人向け国債は10 年満期ですが、発行から一年経過すれば原則としていつでも中途換金が可能です。その際は、個人向け国債の口座を開設している取扱機関に中途換金の請求をすることになります。ただし、換金金額(国が買い取る金額)は、次の計算式で算出され、解約ペナルティが生じることになります。「中途換金額=額面金額+経過利子相当額−直前2 回分の利子(税引前)相当額」。ペナルティとして課せられるのは税引前の金額となるため、中途換金時には受取金額が投資金額を下回ることもあるので注意が 必要です。
個人向け国債は他の債券とは異なり、金利上昇時にもメリットを享受できる商品設計になっていますが、中途解約のペナルティが大きく、あくまで満期まで保有することを前提に投資すべき商品と言ってよいでしょう。また、変動金利とはいえ、結果的に金利上昇局面で発行される他の国債より金利面で見劣りすることになるため、どのような局面でも優位性が保たれているというものではありません。ある程度まとまった金額を国債で運用する場合には、個人向け国債よりも中期国債(2 年、5 年)を活用したほうが有利なこともあります。
また、「個人向け国債」は券面が発行されず(ペーパーレス)、国債の保有や取引は開設した取扱機関の口座への記帳で管理されます。口座管理料は無料としているところが多いようですが、購入の際にチェックすべき要件の一つと言えます。