誤解しがちな「経済効果」
経済効果とは比較的良く使われる言葉ですが、具体的にはどのような意味を持つのでしょうか。毎年、プロ野球シーズンが終わると、「○○優勝の経済効果はいくら」や、最近では愛知万博などといったイベントがあるたびに消費活動が盛り上がってるかのように取り上げられます。しかし、実際の景気に与える影響は微々たる場合がほとんどだと言われています。
具体的な例で言えば、中央官庁で2005年6月から始まった夏の軽装化(愛称:クールビズ)の経済効果は第一生命経済研究所がまとめたところによると約1,000億円。軽装化に伴う一連の出費は、普通に夏物スーツを買うより約3万円多いと想定。国家公務員の男性約25万人分で、経済効果はまず約75億円。さらに、地方自治体や民間企業の約12%が「今後、軽装を奨励する」という調査結果に着目し、国内の男性ホワイトカラー計1,500万人にこの数字を当てはめてはじいた直接の経済効果が、約619億円とされています。これに衣料関連の小売業などへの間接的な恩恵も含めた全体の波及効果は1,008億円に上るという試算のようです。同研究所では、夏物スーツを買う代わりに、シャツやスラックス、靴などを新調すると仮定、地方公務員や民間企業にクールビズが浸透すれば、衣類関連の小売業や製造業などへの波及効果が大きいと見ているようです。ただし、追加出費があっても他の支出は抑えないという、言わば都合のよい前提となっている点には注意が必要です。
経済効果とは結局、どれだけお金が動くかということ
前述のクールビズに限らず、ちょっとしたイベントがあれば、それに伴う経済効果が喧伝され、さも消費活動が盛り上がるかのように聞かれますが、これはアナウンス効果を重視した宣伝活動の一種とも言えます。経済効果とは、特定のイベントを通して、それに関連したお金の流れがどのくらいの規模になるかを予測したものであり、「新たに付加価値が生み出されるもの」ではありません。GDP(国内総生産)は「付加価値の創造」の積み上げであり、GDPの伸び率(経済成長率)が拡大しているかどうかで、その国の景気状態を判断する事が出来ますが、経済効果はそれとは違います。端的に言えば、無から有を生み出すものではないのです。その意味からすると、クールビズは夏のビジネスシーンにおける服装の新しいカタチの提案に過ぎず、衣料関連の消費の内容を変化させるものに過ぎません。
ちなみに、内閣府が実施している景気ウォッチャー調査では、「クールビズ効果がプラス面とマイナス面と出でいる中、ワイシャツ、下着、スラックスが全体の売上をけん引し、マイナス面を大きくカバーしている」、「本来、夏物のジャケット、ワイシャツ、ネクタイを取り揃えて販売しているが、クールビズの影響でバランスが崩れている」、「クールビズの影響か、40代の客を中心にスーツの来客が激減しており大きな打撃を受けている」といった現場の声も取り上げられています。
経済効果の数値は参考程度に
ニュース等で取り挙げられると、プラスの経済効果ばかりに注目が集まりがちですが、その裏側でマイナスの影響を受けているところがあることは、案外見落とされています。誰しも景気の良い話をしたいのは判りますが、「経済を読む」という意味においては、表面的な動きを追いかけるだけではなく、一歩踏み込んだ考え方をする必要があると言えるでしょう。
経済効果とは、一般的に「予測」されるものであって、実際にそれがどの程度あったのか「実測」されることはほとんどありません。また、経済効果を算出する際に用いられる「波及効果」とは、「あること(そのテーマ)」に少しでも関係あると「計算した人が思いついたもの」を積算したものです。信用するだけ無駄とまでは言えないまでも、こうした見方もあるという参考程度に受け止めておく方が良さそうです。